作家さんを訪ねて 画家上野谷憲示さん

記憶に残る越前市の歴史や文化、
暮らしを描き続けたい。

 

描いてみて改めて身近な街の素晴らしさを再発見した。 

65歳の定年を機に「水彩画は、気負わずに描きたいときに描けるのがいい」と、油絵から水彩画を描くようになったという上野谷さん。「待ちに待った自由な時間が手に入って、手始めに自分が暮らす身近なたけふの街(越前市)を描いてみたら、すごく良かったんです。描いてみてこんな街はないなぁと、改めてふるさとの再発見をしたというか」。そこからは、街を描くのが楽しく2年で300枚近くを描きあげたそうです。「風景写真だと、不要な部分も含めて全部が写っているので記録になりますが、情報が多すぎて記憶には残りにくいんですね。でも絵は一度、人を通していて大事なエッセンスだけが残る。その大切な所しか描かない絵だからこそ、記憶に残ると思っています」と上野谷さん。3年目頃からは街を描くことが「楽しい」から「この風景を何十年か先に残したい」という使命感に変わっていったと話されます。

 

小磯良平氏の絵画に魅せられて、始めた油絵。

大学時代に日本を代表する画家・小磯良平氏の絵にふれたことをきっかけに、その素晴らしさに魅せられて、油絵を始めたという上野谷さん。以来、一貫して肖像画を独学で描き続けてきました。「肖像画には、その人自身があらわれると思います。だから絵を描く対象として人間が一番面白いですね」と上野谷さん。知る人ぞ知る存在で、知人を通じ「上野谷さんに描いてほしい」と依頼が続き、働きながら描き続けてきたそうです。「やはり、喜んでもらえると嬉しいですよね」。半面、油絵を描くには、自分の気持ちを整え、心構えもって描くことから精神力や体力も必要だとも話されます。今でも油絵は年に1~2枚描かれているそうです。

越前市の今の歴史と文化を1000枚描き切りたい。

現在、越前市街地や越前和紙で有名な今立地区などはほぼ描き、舞台は郊外へ。線画で描き、着色、1枚20分位で描き上げてしまうという、上野谷さん。大切にしているのは切り取る構図。「武生の街中は、戦争にも地震にもあわず、神社や仏閣が多く残っています。紫式部が通った道、北国街道、その時代感を直に感じられて描いていて楽しいですね」。「街の風景をこれからもまだまだ描き続けたい」と語る上野谷さんが掲げる目標枚数は1,000枚。目指しているのは街を描ききり、画集を作ること。県外での同窓会などにお土産として水彩画を手渡すそうですが、毎回、本当に喜ばれ、楽しみにされている方が多いそうです。「近い将来、画集にまとめたいと思っています。県外にいる方に、ふるさとを感じてもらえたら。そして、水彩画を眺めながら、街あるきを楽しんでもらえると嬉しいですね」。上野谷さんは、今日も越前市の「歴史の1枚」を切り取り、記憶に残る、ふるさとの1枚を描き続けています。

 

水彩画を見ながら、街歩きをしてもらえると嬉しいと上野谷さん。どの水彩画にも、どの街かわかるようにちょっとしたヒントが描かれているそうです!

常にきれいに整えているという上野谷さんのアトリエ。油絵を描くときはアトリエを綺麗にして心も整えて描き始めるそう。今でも、油絵は年に1~2枚描いていらっしゃるそうです


どこか、ほっと心が安らぐ上野谷さんの水彩画。今にも街のざわめきや息遣いが聞こえてきそうです


特徴的だった旧体育館。今はない建物も歴史の1枚として描いています


かねて、水彩画を立体化してみたいと始めたデコパージュ。思った以上に面白いと上野谷さん。

水彩画のデコパージュは珍しいそうです


上野谷憲示さん
ふるさと、「たけふ」の風景を描き続ける画家。高校時代、日本を代表する洋画家小磯良平の作品を観て感動し、油絵を始める。以来、大学、勤務のかたわら一貫して肖像画を描き続け、定年退職を機に水彩画を描き始める。

今では700以上の作品を手がけ、2019年には『上野谷憲示 風景画展』も開催。地元の多くのメディアに取り上げられている。絵画教室も行っている。

エードットカンパニー