やなせ和紙 柳瀬晴夫さん

和紙を漉くときは、その先にいる人を思い
「凛」とした姿勢で。


やなせ和紙の作業風景

暮らしの中の和紙づくりができたら

越前和紙の産地として、紙祖神 岡太神社・大瀧神社に守られながら、今も60軒余りの業者が伝統の技を伝える越前和紙の里・今立五箇(ごか)(旧今立町岡本地区、大滝・岩本・不老・新在家・定友)。やなせ和紙はその五箇にあります。紙漉きを生業とするやなせ和紙が得意とするのは、襖サイズの越前和紙。国宝クラスの仏閣などにも採用されることがあり、「国宝クラスの方が集まるところに使われるものなので、漉くときも凛とした姿勢で漉くように心がけています」とやなせ和紙の柳瀬晴夫さん。


柳瀬晴夫さん

最近では、立体的な造形を活かした和紙を材料とした箱も製作しています。やなせ和紙代表の柳瀬晴夫さんは「日々の暮らしの中に息づく和紙づくりができたら」と柔和な表情で話されます。

手漉き紙の可能性を広げた和紙の箱「harukami」

和紙の箱「harukami」は、越前和紙を一枚一枚丁寧に漉き上げ、丈夫でやさしい風合いに仕立てた逸品。東京伝統的工芸品産業振興協会が実施していた海外向け商品開発のコンペに「思い切って」参加したそうです。「生活様式が変わっていく中で襖紙以外の商品の開発も必要になってきましたので、チャレンジをしました」。デザイナーさんとの二人三脚で誕生したこのアイテムが、手漉き紙に新たな可能性をもたらしました。harukamiは、スウェーデン語で「石」を意味する「cobble(コブル)」。河原にころがっている小石のような、やわらかな丸みを帯びた形状です。


harukami


harukami

実際にやなせ和紙代表の柳瀬さんが「なんて丸くて気持ちのいい石なんだろう」と、河原で思わず手に取って持ち帰った「石」がモデルになっているとか。今や「harukami」海外からの問い合わせもあり、インテリア雑誌やテレビなどにも数多く掲載されています


柳瀬晴夫さんが河原で思わず手に取って持ち帰った「石」

伝統を伝え、地域の行事も大切にしていきたい

柳瀬さんは、地域に昔から伝わる紙漉き作業のときに歌われる民謡「紙漉き歌」を歌える数少ない職人です。歌詞の内容は、「(紙漉きを伝えた神様である)川上御前から授かった紙漉きの仕事が、親から子、子から孫へと受け継がれているよ。よりよい紙漉きを続けていきたい」というもの。柳瀬さんは同時に雅楽も奏でます。五箇では地域の人で雅楽も奏でていましたが、一時、柳瀬さん一人になった時期がありました。「伝統ですからやはり途絶えてしまうのはと、地区外ですが楽器を演奏している仲間に一緒にやらないかと声をかけたりしましたね」。いまでは地域の人も参加されているそうです。五箇にとって和紙は、産業でもありますが、地域全体で伝えてきた「心」そのもの。伝統を大切に受け継きながら、チャレンジも続けるやなせ和紙さん。傍らの奥様、跡を継ぐ息子さん、三人に周りには「harukami」と同じ、まあるくて穏やな空気が流れています。


柳瀬晴夫さんとCEO 五十嵐昭順


やなせ和紙の皆さん

有限会社やなせ和紙
代表取締役 柳瀬晴夫
福井大学繊維染料科卒。1978年有限会社やなせ和紙に入社。2015年harukami molnを製作。翌年、cobble製作。