素材としての和紙の可能性をもっと広げ、
越前和紙の産地で紙漉きを追求していきたい。
これが和紙? 独特の手ざわりとカラーが人気のUKIGAMIアイテム。
ビビットカラーの茶缶に落ち着いた雰囲気の和紙箱、丸くてカワイイ缶バッヂ。「浮き紙」という技法を駆使した山次製紙所のブラン「UKIGAMI(ウキガミ)」のアイテム。それぞれに存在感があり、暮らしを楽しくさせてくれると人気が高まっています。
山次製紙所が持つ独自技術「浮き紙」は、エンボス加工とは似て非なるモノ。エンボス加工は、乾いた紙に圧を加えて丸みのある角(絵柄)を浮き上がらせます。一方、浮き紙は、和紙を漉く工程で凹凸をつけているのでエッジの精度が高く、ほぼ90度の立体表現となります。その違いは一目瞭然! そこに惚れ込んでいる人も多いのではないでしょうか。
数年前、自社で浮き紙を使った商品開発を考えていたものの実現が難しく、知人のプロダクトデザイナーに依頼したところ、出来上がったのが茶缶でした。丸いモノができるなら四角いモノをと考えられたのが和紙箱。さらに浮き紙の強度に着目し、ミシンで縫えるからとカードケース…という具合に、浮き紙の特徴を生かしたアイテムが増えていきました。これらを手がけてきた山下寛也さんは、デザイナーやいろんな人たちとアイテムを開発していくなかで、「弊社は紙漉き屋、和紙屋。さらに和紙は、何にでも展開できる“素材”でもある。私たちには、素材づくりをしているという自負があります。いろんな種類の素材を作り、それで幅広い提案をしていただければ嬉しいなぁと。そこには自分だけでは思いつかない素材の広がりがあると思うのです」と話します。
前職で得た知識も活用しながら、アイテムではなく“和紙”で勝負する。
山下さんが紙漉きを始めたのは23歳の頃。それまでは、専門学校でインテリアデザインを学び、京都の染色会社に勤務していました。
「高校生まで地元(越前和紙の産地)にいましたが、越前和紙についての製法など詳しいことはほとんど知りませんでした。でも、染色と和紙との関わりは深く、職場で越前和紙も使うことがありました。そのうち越前和紙の産地としての大きさや凄さ、他産地との違いを改めて知るようになり、いろいろと勉強もするようになりました」
一人っ子の山下さん。父や親戚からの「帰って来んか」の言葉におされてUターン。そのまま山次製紙所に入社し日々、紙漉きを続け、紙漉きを追求しているのです。「UKIGAMI」ブランドは少しずつ認知されてきていますが、山下さんの根底にあるのは、あくまでも“和紙を作ること”。そのことは近年、少しずつ形にもなってきているようで、「浮き紙」はオリジナル文房具で人気の「カキモリ」のノート表紙や、県外店のチョコレートのギフト箱などに使用されています。
さらに、地元問屋からは海外オーダーの依頼もありました。アメリカ在住の作家が求めたのは“色褪せない和紙”。素材づくりに試行錯誤する一方、色に関しては前職場(染色会社)に相談しながら、さまざまな問題をクリア。現在、“ヒロヤペーパー”として提供されています。
「本業はあくまでも紙漉き。アイテムは何であれ、浮き紙を見て“山次の和紙だ、素材だ!”と知ってもらえること、ブランドとして広く認知されていきたいと思っています」
「和紙」と「笑顔」、その2つのブランドで、越前和紙をもっとPRしていく。
紙漉きに携わり、和紙の可能性を追求するようになって約20年。山下さんのモットーをお聞きすると、「皆と仲良く! わからないことは聞けばいい」とにっこり。山下さんの笑顔にはやさしさと温かみがあり、出展するイベント会場でも「山下さ~ん」と声を掛けられることも多いそう。和紙と同様、山下さんの笑顔もブランドのようです。
「和紙やアイテムというモノは必要ですが、一番大切なことは“人”。その人に惚れて、信じて、そのモノを購入したり契約するのではないでしょうか。ありがたことに、私は人に恵まれていると思います。その方々のおかげで今あるし、今後も頑張っていかなければと思っています」
何にでも使える振り幅の大きな素材、和紙。和紙を使ったアイテムは、山下さんの笑顔とともに、いろいろな人やところ、空間に広がっていきそうです。
「浮き紙だけでなく、いろいろな種類の和紙を作り、その存在を知ってもらい、いろんなアイテムを作ってみてほしいので、OEMのシステム作りも考えています。それに、越前和紙は産地としても大きいので、素材としての和紙の可能性はもっと広がると思っています。和紙のある暮らしが、当たり前になればと嬉しいですよね。これからも、私たちの想いと和紙づくりをわかりやすく魅力的に伝えらえるよう積極的に考え、発信していくつもりです」
いつか、どこかで、素敵な和紙アイテムを見つけた時。もしかするとそれが、山次製紙所の和紙かもしれません。そんな嬉しい出合いが、今から待ち遠しいです。
山次製紙所では、原料調達から原料作り、紙漉き、製品(和紙))まで一貫して行われている。
明治元年創業の山次製紙所。現在は山下さんの親族と若手社員を含め、6名が紙漉きを行っている。その基本となる原料や製法は、1500年前から変わることはない。
そこに置いてあるだけで存在感のある茶缶。模様もカラーも独特だが、一番印象的なのは「浮き紙」技法の手ざわり。これが和紙?と驚く人も多い。
山下さんご本人発案の缶バッヂ。お気に入りのネクタイ購入をきっかけに熟考、付加価値をつけるために、ピンを止める小さなネジに眼鏡の部品を採用。福井は日本一の眼鏡枠の生産地で、地場産業のコラボアイテムとなった。
山次製紙所 伝統工芸士
山下寛也さん
越前市(旧今立町)生まれ。工業高校を卒業後、京都のインテリアデザインの専門学校へ進学。卒業後、染色会社に就職。23歳で帰省、伯父が営む「山次製紙所」に入社。伯父や父、従業員の紙漉きを見様見真似で覚えつつ、独学で知識も蓄積。同社が持つ「浮き紙」技術に着目し、モダンなデザインの新プロダクトライイン「UKIGAMI(ウキガミ)」を展開中。プライベートでは、二児の父親。