和紙問屋だからこそできることはまだまだある!
オリジナル商品の開発や、異業種とのコラボで越前和紙をより身近な存在へ。
和紙と洋紙の違いに戸惑いながらも、経験と実績を積み重ねた30代。
『山岸和紙店』の創業は昭和24年(1949年)。現社長、山岸大祐さんの祖父が立ち上げた『山岸惣五郎紙店』から始まりました。
「祖父からは“跡取り”として刷り込みがあったように記憶していますが、父からは家業の話も、継承を強制されたこともありません」と山岸さん。では、どうして家業を継いだのでしょうか。
「大学在学中に父が病で倒れたのがきっかけで、長男として家業のことを考えようと。卒業後は県外の紙の専門商社に就職し、紙全体のことをはじめ、印刷やパッケージ、出版などを経験しました。30歳でUターンし、山岸和紙店の社員として仕事を始めました」
業界最前線でキャリアを積んできたという自信とプライド、そして家業継承、産地を何とかしなければ!というプレッシャー。若さゆえ、その熱い想いが先走り、空回りしてしまうこともあったようです。
「前職で扱っていたのは洋紙がメインでした。洋紙は色や質にメリハリがあり、1+1=2というような分かりやすい作りです。それを淡い色合いや風合い、アンニュイな和紙にも当てはめてしまい、それが正解とも思ってしまっていたのです。だから生意気にもベテランの紙漉き職人さんに意見し、当然、怒られ、「弊社の発注は受けない(漉かない)」とまで言われる始末。今なら洋紙と和紙、それぞれの違いも良さも分かるし説明もできるんですが、まさに、若気の至りです」
当時を思い出し、笑いながら語る山岸さん。ベテラン職人との気になるその後は、「きちんと謝罪に伺い、自分も成長し、時間の経過もあって、無事に和解。今も良い紙を漉いていただいています」とのこと。
和紙はプロユース? 一般の人にもっと知ってもらう仕掛けや努力が必要。
近年、製造業における“問屋”の存在が希薄になりつつあり、問屋を通さず、製造業自ら企画・販売を手掛ける企業も多くなりました。和紙業界も同じと思いきや、そうではないと山岸さん。
「ご存じのように紙の種類は多く、生産者にとって在庫を持つことはリスクです。そのリスクを私たち問屋が倉庫的役割として担い、同時に企画や管理、流通も考え、業界の情報発信もしていく。問屋は業界の必要不可欠な存在だと自負しています。ちなみに弊社が扱う紙は約4000種類と膨大です。その中から企画や商品に合ったものを的確に選択していくのも、問屋の大切な仕事なのです」
日本の手漉き和紙の三大産地は、越前と美濃(岐阜県)、土佐(高知県)。それぞれに特徴があり、努力も続け、新商品を発信し続けています。もちろん越前和紙もそうですが、山岸さんの実感としては「まだまだ」なのだとか。
「和紙を使うのはプロ、つまりプロユースやB to Bが大半で、一般の方(エンドユーザー)にとって越前和紙はまだまだPR不足だなぁと。それは以前から感じていたことですが、コロナ禍、オンラインで多くの方とお話する機会を得て、想像以上に知られていないことを改めて痛感しました。発信不足を反省すると共に、何かしなければと奮起。数年前から立ち上げたネット販売を始め、新商品の企画・開発にさらに力を入れているところです」
平成29年(2017年)から始まったネット販売では、プライベートブランド「sogoro(そうごろう)」を立ち上げました。「そうごろう」とは、創業者である祖父の名前、惣五郎。先代に恥じない、後世に伝統を伝えていくという覚悟の表れでもあるようです。同社の企画開発商品は、「懐紙」や「懐紙ケース」、様々な色や柄の和紙が入った「カミノカケラ」、「越前手漉和紙 恵伝」などがあり、人気を集めています。
ブランドロゴやオリジナル懐紙など、デザインは弟(専務)が担当。
兄弟で会社と新ブランドを盛り立てていく。
時節柄、注目されているのは「越前和紙のしめ縄飾り」です。数年前、和紙を使ったクリスマスリース作りで交流のあった造花専門店『ボヌールヴィエント』とのコラボ商品で、和紙独特の風合いが素敵なアイテムです。
「昨年から“福和来(ふわら)”のブランド名で販売しています。福井と幸福、和紙と調和と和む、それらがやって来るという意味が込められていて、“ふくはくる”とも読めるんです」
「懐紙」やブランドロゴ、パッケージ周りなど、同社商品はデザインも特徴的で素敵。デザインを担当するのは、同社専務であり、山岸社長の実弟の保喜さん。もともと眼鏡のデザインに従事していましたが、家業へ転職。一緒に仕事をするようになりました。
「兄弟だから分かり合えることや、通じることはあると思います。ちなみに、私が好きなもの、良いと思っているデザインはあまり売れないんですが、やはり弟がデザインするものは間違いなく売れる(笑)。デザインに関しては、彼に任せています」
約4000種類もの紙を扱う問屋だからこそ、紙が持つ無限の可能性も、実現する術も知っています。これからの新企画や新商品への期待も高まります。
「ただ単に製品を作るのではなく、そこに歴史や物語を加えること、そしてそれに共感していただけるファン作りも大切だと考えています。例えば、「和紙フラワーボックス」は、母の日だけでなく、四季を通じた花Goodsとして展開していければと思っています。この他、和紙の原料である楮(こうぞ)や三椏(みつまた)をイメージ、関連付けた商品も考案中です。ご期待ください!」
福和来(ふわら)の「越前和紙のしめ縄飾り」は、「八の字」「丸絞り」「扇」の3種類があり、すべて手作り。色の展開もあるので、家や玄関の雰囲気や色合いに合わせて選んでみて。「5色展開の「丸絞り」は別名、ゴレンジャー!(笑) お好きな色をどうぞ」(山岸さん)
この他、吸盤付の自動車用(小サイズ)もある。
屋外に飾るしめ縄。「和紙なので、雨風にさらされて破れるのでは?」と心配する方も多いはず。同社ではその心配を払しょくすべく、2週間の雨風テストを実施。「結果は、もちろん破れません。和紙って強いんですよ」(山岸さん)
和紙独特の柔らかさと風合いを生かした様々な和紙の商品を開発。社内の一角にショールーム的に商品を展示している。人気は問屋だからこそ実現した様々な色や柄の和紙の詰め合わせ、「カミノカケラ」。様々なサイズの詰め合わせの他、A4、A5サイズもある。
様々な色やデザインが揃う「懐紙」。文字を書く、お菓子を置く、ラッピングに利用、アルコールを吹きかけて除菌シートにするなど、いろいろな使い方ができる便利アイテム。
株式会社山岸和紙店
代表取締役社長 山岸大祐さん
1975年、越前市生まれ。体育教員を目指し、県外の体育大学に進学。大学在学中はライフセービング(海難救助)と出会いインカレ優勝・世界大会出場を果たすも、父親の病気を機に家業を継ぐことを決意。卒業後は紙の専門商社に就職。約7年勤務後Uターン、30歳で家業に入る。