縁起柄というものをご存知でしょうか。
古くから日本人は、人生の節目や大切な場面で「縁起」を大切にしてきました。
験を担ぎ、柄に願いを託し、神社へ参拝する――。
そんな美しい風習は、時代を超え、今もなお私たちの暮らしの中に息づいています。
近年では、日本を訪れる海外の方々も、
その文化や意味に魅了され、学び、体験される機会が増えているようです。
本日は、そんな「縁起柄」について、少しだけお話しさせていただきます。
縁起柄の起源は、仏教などの思想や、
自然を敬い共に生きてきた日本の風土にあると言われています。
人々の「幸せを願う気持ち」が文様として表現され、
平安時代以降、日本独自の文化として発展し、定着していきました。
もともとの意匠には、
飛鳥・奈良時代に海外から伝わった文様も多く含まれていたそうです。
それらを平安時代の貴族たちが和風に取り入れ、
日本ならではの豊かな自然や四季の美しさを重ね合わせながら、
独自の縁起柄へと昇華させていきました。
さらに、鎌倉・室町・安土桃山時代になると、
武士たちの間で「勝利」や「安全」を願う想いが文様に込められるようになります。
そして江戸時代には、
それまで一部の特権階級の文化だった縁起柄が庶民にも広まり、
歌舞伎役者が身にまとった着物の柄が流行するなど、
まるで現代のトレンドファッションのように、多くの人々に親しまれていったそうです。
人々の願いや祈り、美意識が込められた縁起柄。
その一つひとつには、日本人らしい繊細な感性と、
誰かの幸せを願うあたたかな心が息づいているのかもしれません。
それでは、代表的な縁起柄をご紹介していきましょう。
● 麻の葉(あさのは)
麻の葉を幾何学的に表現した文様です。
麻は生命力が強く、まっすぐにすくすくと育つことから、
「健やかな成長」への願いが込められています。
古くから赤ちゃんの産着などにも用いられてきました。
● 市松(いちまつ)
途切れることなく続く格子柄が特徴の文様です。
もともとは「石畳」と呼ばれていましたが、
江戸時代の歌舞伎役者・初代佐野川市松が舞台衣装として着用したことで大流行し、
現在の「市松柄」と呼ばれるようになりました。
柄が連続して続くことから、「繁栄」や「発展」を意味します。

● 七宝(しっぽう)
円を重ねてつなぎ合わせた、美しい曲線の文様です。
仏教経典に登場する七つの宝「七宝」に由来し、
円が永遠につながる様子から、
「円満」や「良縁」、「調和」への願いが込められています。

● 青海波(せいがいは)
穏やかな波がどこまでも広がる様子を表現した文様です。
古代ペルシャからシルクロードを経て日本へ伝わったとも言われています。
繰り返す波の姿には、
未来永劫続く「平和な暮らし」や「安定した幸せ」への願いが込められています。

● 亀甲(きっこう)
亀の甲羅をモチーフにした六角形の文様です。
古くから亀は長寿の象徴とされ、
「鶴は千年、亀は万年」という言葉の通り、
健康長寿や繁栄を願う柄として、お祝いの席でも親しまれています。

● 矢絣(やがすり)
矢羽根を図案化した文様です。
放った矢が戻らないことから、
「出戻らない」という意味を持ち、
特に嫁入り道具や晴れ着などに用いられてきました。
人生の門出や決意を後押しする縁起柄として知られています。

● 鱗(うろこ)
三角形を連続して並べた文様で、
蛇や龍の鱗を表しています。
蛇は脱皮を繰り返して成長することから、
「再生」や「厄除け」の意味を持つとされています。

● 唐草(からくさ)
植物のつるが途切れることなく伸び続ける様子を描いた文様です。
生命力の強さを象徴し、
「長寿」や「子孫繁栄」を願う意味が込められています。

● 梅(うめ)
寒さの中でいち早く花を咲かせる梅は、
「忍耐」や「生命力」の象徴。
また、魔除けとしての意味も持ち、
古くから親しまれてきました。

● 鶴(つる)
長寿や夫婦円満の象徴として知られる吉祥文様です。
一生添い遂げる習性から、
「良縁」や「夫婦円満」の願いも込められています。

一つひとつの文様には、
古くから受け継がれてきた願いや祈り、
そして日本人の繊細な美意識が込められています。
普段、何気なく目にしている文様にも、
実は人々の願いや祈り、そして美しい意味が込められているのかもしれません。
a.department storeでご紹介している伝統工芸の中にも、
こうした吉祥文様が施されたものが数多くあります。
古くから受け継がれてきた柄や技、美意識。
そして、その奥にある「幸せを願う心」までもが、
時代を越えて現代へと受け継がれている――。
日本という国には、
目には見えない大切な想いや文化が、
今もなお静かに息づいているのだと、改めて感じさせられます。
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五十嵐郁子
1975年生。東京在住。エーデパディレクター。五十嵐羅紗店お姉(おあね)。福井県越前市生まれ。日本女子大学卒。大学生の2人の娘の母。東京福井県人会理事。福井市応援隊サポーター。
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