越前の恵みを、一献の美へ。――「太介不」

越前の恵みを、一献の美へ。――「太介不」

不完全さを受け入れ、新品をしのぐ器をつくる〜金継ぎの匠〜 読む 越前の恵みを、一献の美へ。――「太介不」 1 分

皆様はじめまして。越前市の『雲の井酒店』女将の石井由紀世です。
この度、ご縁を頂きましたことにとても感謝致しております。更に『匠の想い』にまでお誘い頂きましたこと、本当に恐縮しております。何せわたくしは酒屋の一女将という立場。匠としてのお話は出来るはずもなく。でもせっかくのチャンスなので、なにか
らわたくしなりの酒屋としての想いをお届けできたらと、筆を進めていきたいと思います。

 まずは当店の説明からさせて頂きますね。雲の井酒店は福井県越前市(旧武生市)の駅前に位置する、まちの酒屋です。初代 石井雄二郎が大正四年に開業して以来、三代に渡り引き継いできて、今年で創業111年になりました。開業当時から主に取り扱ってきた株式会社吉田金右ヱ門商店の『雲の井』の地酒をはじめ、県内の地酒を多種取り扱いしております。


昭和45年当時の雲の井酒店


さて、そろそろわたくしの女将人生を武生の町中の変化と合わせてお話しましょうか。昭和55年、夫とはお見合いで出会い嫁いでまいりました。実家は越前市の神山地区。当初は御近所さんに『町の真ん中に嫁にいくんやのぉ。』と言われたものです。あれから46年、町の真ん中も随分と様変わりしたものです。あの頃は当店属する、中央広小路商店街をはじめ、総社通り商店街・蓬莱本町商店街・善光寺通り商店街が存在し、本当に町中は活気づいておりました。劇場・パチンコ店も数件存在していて、土日などは武生駅から降り立つ人も多くみられたものです。そんな町中が大きく変化したのは、西と東に大型店舗が開店したことが大きく影響しています。昭和63年にシピィ店。平成3年にエスカ店。町中のドーナツ化現象が始まったのです。近所の専門店も少なからず大型店舗に出店していきました。更には各地にコンビニエンスストアも建設され、酒類がどこででも安価で気軽に買える時代へと変わってまいりました。個人の専門店として生き残るためにどうしたらよいのか、思考錯誤する日々が続いておりました。こんな頃からでしょうか、何かしらお店のカラーを出そうと、地酒に力をいれるようになりました。福井県には素晴らしい蔵元が数多く存在します。令和7年現在で45社存在します。





全ての蔵元のお酒をそろえる事は不可能ですが、そこは呑ん兵女将の独断と偏見で厳選させて頂きました。更にひとりでも多くのお客様に福井県の地酒を味わって頂きたくて、無料試飲コーナーを設けております。その時々の女将お勧めの地酒を提供させて頂きます。

 基本試飲可能な方というと、運転しなくてよい観光客の方が多くなります。カウンター越しに地酒の話に留まらず、お食事処のお話や、観光地のお勧めスポットのお話など会話が広がり楽しい時間を共有させて頂いております。中には十数年に渡り福井県に来た際には必ずお立ち寄り頂いている常連様も出来ました。本当にありがたいことす。

 ここ数年町中で商売していてある変化を感じております。それは、目的地として越前市を訪れてくださる観光客増えてきているという事です。北陸新幹線の開通の際にはそれほど実感は無かったのですが、2年前の大河ドラマ『光る君へ』が放映され、市内にも大河ドラマ館が設置された事が大きな原因と考えられます。つまりは越前市に国府が存在国司に任命された為時が赴任し、その際紫式部が同行。そしてその時出会った越前和紙が源氏物語を書く上で強い影響を及ぼした事が国民に認知された事が本当に大きいと感じます。市民として、やつと越前市がピンポイントで注目されたと凄く嬉しく思えました。

 また、同時に越前市は越前国府発掘プロジェクトを五年計画で実施した事です。越前国府が存在したであろう場所が、正に町中だったという事実は我々市民にとっても興味深い事でした。千年前に国府があり栄えていたこの町。その頃から粛々と匠の手により引き継がれてきた工芸品が存在しているのだと。

 この好機に何かせねばと、当店初独自のプロディースで地酒を考案しました。第一弾 『紫式部』そして第二弾『太介不』です。

酒蔵は当店との長年のおつきあいでもある、吉田金右ヱ門商店にお願いしました。またラベルと専用の袋は越前和紙にしました。お酒をお買い上げ頂く事で自然と越前和紙にも触れて頂けたらと思ったからです。お蔭様で両方とも好評を得られ、紫式部は完売し、現在は太介不のみの販売となっております。

 そして、最近良く耳にする言葉があります。

『越前市って素敵な町ですよね。』
『お蕎麦が美味しくて毎年来ます』
『この町が好きすぎて移住したいくらいです』

まだまだこの町の良いところをお客様から聞かされ、知らされます。そして、思う事はもっともっとわたくし自身が越前市を知り、好きになる。そして好きな町の事をご来店下さるお客様にお伝える事。それがこの先の町中の酒屋としての勤めであり使命であるのではと。

 今年わたくしは70歳で古希を迎えます。そろそろフェイドアウトする準備をしなくてはいけないような弱気になっていたのも事実です。でもまだまだ出来る事があるのではと思わしてくださる出会いがありました。感謝。


今回の匠は。。


石井由紀世(いしいゆきよ)さん

1956年(昭和31年)生まれ 武生市神山地区出身1974年 憧れの土地京都に行きたくて京都華頂短期大学社会福祉学科に入学。

1976年 武生市役所に就職 公立保育所の保母として勤務

1980年 石井家に嫁ぐ

1982年 長男の誕生を機に市役所を退職。石井雄二郎商店に就職。今に至る。

越前市の街の中央に位置する雲の井酒店の女将。
越前市に根ざし、地酒を通して地域の魅力発信に取り組む。銘酒「太介不」をはじめ、土地の風土や文化を感じられる日本酒を丁寧に紹介し、多くの人に越前の味わいを届けている。温かな人柄と細やかな心配りで、地域内外の酒好きから親しまれている。

雲の井酒店

福井県越前市幸町4−1
ハピライン
たけふ駅から西へ徒歩6分

町中の酒屋の女将が心よりお待ちしております。


越前国府「太介不」


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